インフォームド・コンセントと転医提示及び転医勧告義務違反


インフォームド・コンセントとは、患者の自己決定権を保障するための医師の説明義務である。

本件の場合は、平成11年6月29日脳外科のS教授の「下肢のみならず、顔もむくんでいる」という指摘で、ようやく循環器内科の被告Sが検査を始めた結果、重大な事実が判明した。

肺高血圧、右心系拡大、三尖弁逆流4.2m/s、推定右室圧最大75、平均60mmHg。放射線科医師の所見によってである。

この結果、3月には顕在化し、亡E子が訴えた下肢の浮腫の原因が右心不全であることが分かった。

被告Sは、「正直言いますと、6月下旬のエコーをみるまではそこら辺のことを考えていませんでしたから」と言うように、全く予見できていなかった。

病状の改善を図るために、一刻も早期の正確な診断と治療の開始が重要となるが、その場合も、被告Sが積極的に診断と治療を行っていなっかたことと、専門施設が他にあることから、対応はあくまで亡E子が決定すべきである。

その決定の前提として、次のような内容があらかじめ説明されている必要があった。

すなわち、被告Sとしては、

(1) 六ヵ月半の外来通院中に、肺高血圧、右心不全を全く予見できていなかったこと。
   同日実施した心電図検査結果では、右心負荷とは判断していなかったこと。

(2) 心エコードプラー検査の結果、肺高血圧の原因疾患の中で、先天性の疾患とは認められないので、次に肺血栓塞栓症の可能性を考え、肺血流シンチ検査をすること。

(3) 初期に投与したβ遮断薬(アーチストとテノーミン)は肺高血圧による右心不全に禁忌であること。

(4) 肺高血圧が進行すると、右心不全と呼ばれる状態になり、その症状がみられるようになること。
   下肢の浮腫、顔のむくみは右心不全の症状であり、高度になると腹水、胸水、心嚢液の貯留を認めること。

(5) 肺高血圧の原因疾患のなかで、原発性肺高血圧症と慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)は、特定疾患治療研究事業対称疾患に指定されていること。

(6) 治療として、PGI2の持続静注があるが、被告医院では経験がないこと。

(7) この治療は、循環動態モニター下での投与量の調節が必要であり、本療法に熟練した施設での施行が必要であること。
    これは、平成11年4月より入院患者に限り保険適用となったこと。

(8) 専門家が他の病院にいること。

また、脳外科のS教授としては、

(1) 被告Sを紹介したことが間違いであったこと。

(2) 亡母が「薬に慣れるまで体がもたない」と言ったβ遮断薬が循環器内科のY教授の薬であり、そのことを今まで黙っていたこと。

(3) 知人に肺高血圧症の専門家がいること。

被告医院には、これらの説明をした上で、亡E子の生命を尊重するために、被告Sには、転医勧告をする義務が生じ、脳外科のS教授には、その旨を、被告Sに強く促さなければならない義務がある。

しかし、本件では、検査結果及び検査結果をふまえての、これまでの経過と爾後の対応及び医療情報の提供を、全く行わなかった。

その結果、亡E子は、被告医院に入院することになったが、検査入院する時には症状が悪化しており、入院してからは十分な検査と治療ができないまま、一ヵ月後には亡くなってしまったのである。

被告医院は、甚だしい説明義務、転医提示義務及び転医勧告義務違反をし、そのために亡E子は死亡したのである。


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